2020年2月22日土曜日

続木力さんについての投稿

高校一年生の冬、山崎まさよしさんに影響を受けてハーモニカをはじめ、なんとなくぼーーっと続けていた。1年後くらいに見田くんと初めて人前で前座としてだが演奏をさせてもらったとき、メインの演奏グループの中に、ブルースハーモニカ奏者『妹尾隆一郎』さんがいて、妹尾さんの演奏を聴き、ハーモニカってこんな音出せるんだ!とほんとに感動した。プロのハーモニカ奏者を体感して、なんとなくこのままではいけないと思い、今までとは違う気持ちで練習をし始めた。だが、妹尾さんがどうやって吹いているかとかすごすぎて全然わかんなかったし、なんだかうまくいかなかった。高校を卒業し、東京に出てきて(住んでるのは埼玉)、ある時、見田くんとハーモニカのコンテストを観に行った。コンテストのあとに、松田幸一さん、妹尾隆一郎さん、八木のぶおさん、石川二三夫さん、西村ヒロさんなどなど、ホーナーというハーモニカメーカーのカタログのプロ奏者紹介ページに載っている人が次々と演奏する『模範演奏』が始まり、観ていたのだが、あまりにもすごすぎて、ちょっと違うかもしれないが、東京ってすごいなあと思って、東京というプレッシャーに負けそうになった。みんなかっこよくて、なにか仕出かしそうな雰囲気がぷんぷんとしていて、プロって違うよなあー、とりあえず帽子とか被ったほうがいいのかなあー、ブルースってかっこいいけど難しそうだなあー、とかいろいろ思っていたら、わりと、いや、とても地味な感じの人が出てきた。しかもその人は、みんなそのイベント専用のバンドさんといっしょに演奏しているのに、女性のボーカルと男性のギターを連れてきていた。ボーカルの方、ギターの方2人ともとてもミュージシャンっぽいなにか仕出かしそうな雰囲気なのに、あきらかにその人だけ地味だった。2時間くらいのコンテストのあとにもずっと模範演奏だったからハーモニカの音にも飽きてきていて、この人の演奏をしっかり聴くという気分ではなかったぼくは、ちょっと早く終わらないかなーと思っていたくらいだった。「ここ数年で気に入ってるユニットで今日はやらせてもらいます。」その人がそう言うと、演奏が始まった。あっ!なにこれすごいな。なんだこれなんだなんだ。この人演奏してる?すごいな、ほんとに?この人?すごいすごい。すごいなーすごいなー、いや、すごいなーこの人ーー。歌の合間をうめるフレーズだけで素敵だったが、間奏のアドリブがもうなんというかそのときのぼくには衝撃的すぎて、めまいに近いなにか変な感じを受けたのを覚えている。東京のプレッシャーはどこかにいっていた。今までの演奏者の方々とは全く違ったジャズ的な要素が入った、どこかヨーロピアンな、ブルースな感じばかりではない、この『ブルースハープ(ぼくが演奏しているハーモニカの呼び名)』という楽器では聴いたことのないとても興味深い音を、その人は出していた。音もとてもきれいで、ビブラートがとても独特だった。すごかった。この人は、すごかったのだ。演奏が終わったあと、隣にいた見田くんとこの人すごいねー誰だろうねこの人。誰?だれ?みたいになった。演奏始める前に言ってるだろうから聞いてろよという感じだが、とってもすごい演奏だったこの人は、『続木力』さんといった。その日のそのあとのことはあまり覚えていない。その日から続木さんはぼくのアイドルになった。あんなことできるようになりたいなあー、あの人みたいになりたいなあー、会えないかなあー、街でばったり会ったりできるのかなあー、教えてもらうみたいなことはできるのかなあー、ハーモニカなにつかってるかなあー、同じの使えばうまくなるかなあー、CDあるかなあー、ほしいなあー、CDとかないかなあー、出してないかもなあー、でもあるかなあー、人のCDに入ってるやつでもいいなあー、なんかあったらいいなあー、続木さんのことをとてもよく考えた。見田くんと、続木さんやさしそうだよね、続木さんに面倒みてもらいたいよね、と話したりした。図々しかった。なんかでも、そういうことを思うくらい続木さんが好きになっていた。地味だなとかおもってたくせに、すごく好きになっていた。20年近く前のことだから、今よりも情報が少なく、続木さんは自分のページを持っていなかったし、調べるのも大変だったが、懸命にネットを駆使して、半年かそれくらいしてから、見田くんと、コンテストの時に演奏していたユニットのライブを観に行った。コンテストの時は1曲だったが、その日は2時間ほどまるまる続木さんの演奏が聴けて、とても幸せだった。終演後、続木さんは足を怪我していたみたいで、すぐに帰ってしまい、話しかけることはできなかった。次に行ったときは話しかけようと思った。すぐに次の機会は訪れた。また終演後に、ぼくは本当に緊張したが、何回もやめようとしたが、頑張ってアイドル『続木力』さんに話しかけた。「すいません、続木さん、このハーモニカケースにサインしてもらえませんか?」ミーハーだった。ハーモニカのことを聞くのではなく、ぼくはサインを求めた。やはり、続木さんはぼくにとってアイドルだったのだ。「いいですよ。でもいいの?こんな立派なケースにぼくのサインで。小さく書こうか?」なんとなく予想はしていたが、続木さんはやさしかった。とてもやさしかった。ハーモニカをやってること。どんなことをやっているか。どういう音楽が好きか。そんなことを話した気がする。そしてそのあと、衝撃の言葉は、ぼくに向かって放たれた。「今度、酒井俊さんっていうボーカリストのライブが渋谷であるから、荷物持ちでついてくる?連絡先教えるよ。」驚いた。驚きすぎた。続木さんは、初めて会う若者でなんの情報もない変なやつかもしれないこのぼくに、連絡先を教え、そして、間違えれば自分の立場も危うくなるのにこの得体も知れぬサインください野郎を、ライブ現場に連れていってくださると言っているのだ。信じられなかった。信じられなかったし、よく理解できなかった。けど、いきます!といった。断る理由はなかった。いきたい。そんなの。そんなのいきたいに決まっているのだ。続木さんと電話かメールか忘れてしまったが、渋谷駅で待ち合わせをして、ぼくは、人生初めての、荷物持ちをすることになった。渋谷駅で待っていると、続木さんが、おう、待った?行こうか。そういって現れた。ここで気づいてほしいことは、荷物持ちはふつう、ミュージシャンの家まで荷物を持ちにいくということだ。現場最寄り駅では待ち合わせないのだ。それでは荷物持ちの意味がないのだ。だが、続木さんは、そればかりか、ぼくに会ってからも荷物をそのまま自分が持って行こうとしていた。現場最寄り駅で待ち合わせてる時点で失格なのだが、それでも今日は荷物持ちだけはがんばろうと、荷物持ちとしてのプライドを家から持ってきていたぼくは、いや、荷物を持ちます、というと、そう?悪いね、じゃあお願いします。といい、続木さんは、ようやく荷物をぼくに渡した。駅から会場まではそれほどは歩かなかった。ほぼ、ぼくの来る意味はなかった。会場は、『JZ Brat』というおしゃれな広めのとても素敵なところだった。いつかの東京のプレッシャーが、いく月もの時間を経てまたぼくを襲ってきた。もうすでに『酒井俊』さんや、他のミュージシャンの方々がセッティングをしており、続木さんは皆さんと握手をしてからセッティングを始めた。「続木さん今日荷物持ちいるの?いいねー。」とどなたかがいって、続木さんは宜しくねーといったようなことをいっていた。ぼくも頭を下げた。ぼくは、荷物持ちとしてのプライドしか持ち合わせていなかったため、荷物を置いたあとは、全く何をしていいかわからなかった。そばで固まっていると、「ねえ、いま何時かわかる?」と酒井俊さんはぼくに聞いてきた。数日前にテレビでみた酒井俊さんから時間を聞かれ、びっくりしたが、4時17分です、と、緊張しながらも比較的しっかり答えることができた。非現実的なことが起こりまくっていてよくわからないことばかりでそのときのぼくは本当に困っていた。困っているぼくなどはお構いなしに、リハーサルが始まった。少し離れたところでぼくはリハーサルを見守った。ジャズのライブハウスのスケジュール表をみまくっていたぼくは、本日のミュージシャンさんの全員の名前を知っていた。そして先日テレビでもみた酒井俊さん。それらの方々といっしょに演奏する続木さん。俊さんの歌を支えるミュージシャンの方々、それに絡む続木さんの音が心地よかった。リハーサルだけでも、じゅうぶんに楽しかった。店の人以外他にお客さんはいない。ぼくだけに演奏してくれているような錯覚を覚えた。とてもとてもいい時間だった。だが、リハーサルが終わると、ぼくはもっと何をしていいかわからなかった。ここ座ってなよ、と、続木さんは、ミュージシャン専用のスペースのソファを指差した。ぼくは荷物持ちだ。荷物持ちしかできないが、荷物持ちらしさを失いたくなかった。荷物持ちのプライドだ。そんなとこは、荷物持ちが座っていいわけはなかったので遠慮した。だが、他のミュージシャンの方々も、いいよいいよ座んなよと言ってくださって、荷物持ちのぼくはそこに座ってしまった。皆さんが話す内容は、世の中の最近の出来事、今日の曲について、美味しい食べ物のこと、海外にいってきた話、などなど、さまざまだったが、ぼくにはすべてがとても興味深く、荷物持ちとして、静かに頷き、静かに驚き、静かに笑った。その後、食事が出てきて、お店の方は、ぼくの分まで出してくださった。よくわからないけど、お店の方、そして酒井俊さんにお礼をいった。食事はとても美味しくて、続木さんは、食べられないからと、自分の分をかなりぼくに分けてくれた。ぼくはすべてを誰よりも早く食べ終えた。荷物持ちとしてのプライドは消えそうになっていた。かなり時間がたって、お客さんが入ってきた。酒井俊さんはとても人気があるので、大勢のお客さんで賑わった。ここまでくると、皆さんも優しいし、なんとなく雰囲気になれてきて、少しリラックスしてしまっている自分がいた。皆さんが専用のスペースから順々に立ちはじめ、いよいよ本番は始まった。ぼくは、専用のスペースの横の柱に寄りかかって立ちながら演奏を聴いた。本番は照明やお客さんが入ったこともあって、さっきのリハーサルとは全く違う雰囲気になっていた。ミュージシャンの皆さんは、リハーサルの演奏とは比べ物にはならない、質の高い、とても素晴らしい演奏をステージ上で繰り広げていた。ぼくは楽しくて仕方なかった。続木さんは、なにか他のミュージシャンの皆さんの音を感じ、たまに笑みを浮かべながらそこに絡んでいったり、自分から仕掛けていったりと、楽しんでいるようだった。今までで三回しかみたことなかったけど、今まででいちばん輝いて見えた。会場のせいなのか。でも輝いてみえた。かっこよかった。この日は2ステージ入れ換え制で、最初の演奏が終わったあとに、少し時間があったので、また専用のスペースで皆さんと座りながら皆さんの話を聞いていると、なにか仕出かしそうな雰囲気を持った方が、おう!といいながら入ってきた。皆さんとの話を聞いているうちに、その方は、日本ジャズ界でとても重要な人物であるドラマーの『大隅寿男』さんだということがわかった。ぼくは、名前は知っていたので、とても驚いたが、消えそうになった荷物持ちとしてのプライドを取り戻すかのごとく、顔には出さなかった。大隅さんは、とてもかっこよくて、皆さんとの話もとても盛り上がっていた。大隅さんは時間がなかったようで、2ステージ目を観ていくことはなく、会場を去っていった。去るときに、皆さんと握手をし、ぼくには、じゃあまた、と言って、夜の渋谷に消えていった。ぼくにまで挨拶をしてくれるなんて何て素敵な人だと思った。握手ではやりすぎだ。目をあわせてじゃあまた!ちょうどいい。荷物持ちのぼくにはちょうどよかった。大隅さんは荷物持ちのプライドも守ってくれた。ぼくは、引き続き頑張ろうと思った。2ステージ目は、1ステージ目よりもさらに素晴らしかった。ぼくはまた柱に寄りかかりながらも、たまに場所を変えたりして、いろんな角度から演奏を楽しんだ。楽しかった。続木さんは、ずーーーっとよかった。続木さんのフレーズを覚えれるだけ覚えようと思った。どうせ忘れてしまうが、少しでも覚えようとしていた。そんな大変なことをしようとしているぼくのことなどお構いなしに、続木さんはずーーーっと素敵なフレーズをだし続けていた。すごい人だ続木さんは。演奏が終わり、皆さんとまた専用のスペースで座って、少しすると皆さんが自分の楽器を片付け始めた。続木さんも片付けに行こうとしていたので、ぼくがついていこうとすると、ここに座ってていいよ、すぐだし。と言って、一人で片付けにいってしまった。もはやぼくは、荷物持ちでもなんでもない、ただで演奏と食事を堪能した愚か者であった。残ったぼくは、片付けが必要ないピアノ奏者の森下滋さんと二人きりになり、それはそれで大変だった。何を話していいかもわからないので、黙っていると、自分がよくいっしょにやるハーモニカ奏者の話をしてくれた。ハーモニカってこうでこうでこうだから、こうやって楽しんだらいいんじゃないかなとアドバイスをしてくれた。演奏が終わってもまたいい時間をいただいた。続木さんは、こういう時間をわざわざ作ってくれたのかなと思った。皆さん片付け終わり、帰ることになった。続木さんの荷物を持ち、いっしょに駅に向かうと、森下さんといっしょになった。少し歩くと、ぼくはこのコンビニによっていくので、また!と、コンビニに入っていった。続木さんは、今日はなんだかわるかったね、付き合わせちゃって。みたいなことをいってきた。ぼくは、楽しかったし勉強になったことを伝え、感謝も伝えた。新宿駅までいっしょに行き、ここでいいよありがとうと、荷物を自分で持ち、続木さんは電車を乗り換えた。基本的に続木さんや他のミュージシャンの方々の、あとお店の方々の、邪魔をしただけの1日であった。だが、ほんとうに楽しくていろんな体験ができて美味しくて、いい、よい、よすぎる、幸せな、そんな1日だった。続木さんは、どんな気持ちでぼくを誘ってくれたのだろう。不思議な人だなあと思ったが、ハーモニカだけでなく、人としてもとても魅力的な人だと感じた。その後はライブを観に行く以外に、そういう荷物持ちを何回かしたり、続木さんの引っ越しを手伝ったりと、続木さんと会う機会がほんとに多くなった。引っ越しも、ほぼなにもしないで、ごはんを食べて帰った程度だが、続木さんは、なにかとぼくを誘ってくれた。引っ越し後は、毎月、続木さんちにごはんを食べに行き、話をして帰るというのをつい最近までやっていたし、谷川賢作さんとのパリャーソというユニットとの演奏などで、いっしょに演奏する機会も増えたりして、ご自宅ご飯のついでのように数回指導を受けたこともあってか、いつの間にかぼくの師匠といった感じになるのだが、続木さんとは、もう、音楽のつながりだけでない、なにか、家族みたいな感じでずっとお付き合いさせてもらっている。続木さんに会ってからハーモニカの練習も自然とはかどったし、使っているハーモニカの機種だって偶然にもいっしょだ。なんなんだろうこれは。見ず知らずの若者を荷物持ちに誘ったあの日、続木さんはぼくとこんなに長く付き合っていくことに気づいていたのだろうか。続木さんは、ほんとにやさしい。世界的なハーモニカ奏者なのに、すごい人なのに、それを忘れてしまい、ぼくは甘えてしまう。それを受け入れてくれてしまうくらいに続木さんはやさしい。一度、ごはんをご馳走するからと、ぼくの住む遠い遠い川越まで続木さんが来てくれることになったのだが、当日ぼくは、当時やっていた深夜のコンビニの清掃アルバイトのため、待ち合わせ時間になっても起きることなく、その5時間後くらいに起きることになるのだが、慌てて電話すると、「何かあったのかと思ったけど、無事でよかったよ。今日はもう帰ってきちゃったけど。ごめんね、また誘うよ。」と、怒るどころか、謝ってくれた。今度ばかりは嫌われたかと思ったぼくは、なんと言っていいかわからず、ひたすら謝り続けたが、電話を切ったあとに届いたメールをみると、待ち合わせ時間から、3時間は待っていてくれたようだった。そんな師匠は、いない。ぼくもそんなやさしい続木さんに、迷惑をかけないようにしているのだが、そんな思いも空しく、未だに迷惑をかけつづけている。申し訳ない。もう続木さんなしの人生は考えられない。だから、もう諦めて、一生甘えようと思っている。ごめんなさい、続木さん。あなたの弟子、『岳』は、あなたに迷惑をかけ続けます。お許しください。でも、こんなにやさしくて、素敵な人だからあんな音が出るんだろうなあといつも思う。続木さんって、ほんとにハーモニカが上手なんだ。みんなに聴いてほしい。みんなに聴かれると、自分のハーモニカが霞みすぎてみえなくなるのだが、でも、聴いてほしい。ハーモニカってこんなにいいんだということを、いつでも教えてくれる。それが、続木力のハーモニカであるのだ。「この人は、レッスン料を払わない、ぼくの弟子です。でも、ハーモニカはぼくよりうまいんです。宜しく。」このいろんな誤解をとくのにとても時間がかかる人への紹介の仕方を、いつまでも続けていただけるように、日々頑張りたいと思う。


実家のパン屋さんを継ぐためにフランスに修行にいったのにハーモニカ奏者になり、フランスで大活躍したあと、日本に帰ってきてまた大活躍し続けている続木さんと、ピアニストの谷川賢作さんのユニット『パリャーソ』のコンサートがあります。


 2/23(日)

成城学園前 Cafe Beulmans

 Palhaço

 【 出演 】 Palhaço:続木力(harm., recorder), 谷川賢作(pf)
 【 時間 】開場14:30 開演15:00
【 チケット 】ミュージックチャージ3,200円+要2ドリンクオーダー
 【 ご予約・お問い合わせ 】 Cafe Beulmans
tel.03-3484-0047 info.cafebeulmans@gmail.com
 メールでのご予約の場合、必ず当日ご連絡がとれる電話番号をご記載ください


 続木さんも賢作さんも、素晴らしいです。ほんとに。2人の師匠の演奏を是非。
他にも続木さんは様々な方々と様々な音楽をやられています。全部おすすめです。是非!!






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